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ふいに地に足がついた。
もやがかかっていて前がよく見えない。
少しずつ霧が晴れてくると、目の前には川が流れていた。

「三途の川ですよ」
声に振り向くと、さっきの女性がいた。

あれ? この人……
今までどこにいたんだろう。
女性は黙ったまま微笑んで、川のほうを指差した。

橋の上を滑るように歩いてる(?)人もいる。
舟に乗って、川を渡る人もいる。
何か川底に落ちているものを、一生懸命拾おうとしてる人もいる。
溺れてる人もいるけど、なぜか誰も助けようとはしない。

「生前、人に親切にしてきた人は、川を楽に渡れます。人を苦しめたり、欲にまみれた生活をしていた人たちは、なかなか川を渡れないんですよ。」

薫は目を凝らした。
すると、彼らが拾おうとしてる物が見えてきた。
お金、預金通帳……あれは名刺かな?
死んだんだから、あんなものはもういらないのに、わかんないのかなぁ。

「さぁ、あなたは歩いて川を渡りますよ」
溺れている人がいるのだ、深そうな川である。薫はとまどった。
「大丈夫、さぁ」
薫は女性に促されて、歩いて川を渡った。

薫が水に足を入れると、川はひざ下が濡れる程度の浅瀬になった。
すぐそばを舟で渡る人がいる。
これだけ浅いと、舟を出すことはできないはずなのに。
不思議に思いつつ、心に湧き上がる『行かなくちゃ』という想いに押されて、川を渡った。



川を渡ると、そこには草原が広がっており、その中心には、長々と続く道があった。
人々は、誰しも黙々とその道を登っていった。

道を歩いていくと、白い神殿のような、大きな建物が見えてきた。
老若男女を問わず、外国人も日本人もいる。
たくさんの人が、どんどん建物に吸い込まれていく。

お母さんに手を引かれた子供もいる。
「あの子、かわいいなぁ。お父さんお母さんに手を引かれて。 ……え?! もしかして、家族でいっぺんに死んだってこと?!」

思わず後ろを振り向くと、女性が黙ってうなずいた。
薫はなんとなく、複雑な心境を抱えながら、建物の中に入っていった。



「この部屋へ入ってね」
女性に促されて入った部屋には、映画館のような作りで、大きなスクリーンがあった。
スクリーンに向かって、一つだけポツンと置いてある椅子に座る。

薫の後ろには大きな観客席がある。
たくさんの人が座って、何か上映でも待っているのだろうか。

そっと後ろを振り向いた。
そこには祖母と、写真でしか見たことがない祖父が並んで座っていた。
横にいる男の子は誰だろう。
もしかして、小さい時に死んじゃった、お父さんのお兄ちゃんだろうか。


スクリーンで上映が始まった。
若いころの両親が、赤ん坊を抱いている。

あれは……もしかして私?

そこから延々と薫の人生が映し出された。
生まれたところから始まり、乳児期、幼児期、幼稚園、小学校と、一つ一つ上映されていく。


小学校に上がってすぐ、友達をからかったことがあった。
薫にとっては悪気もなく、そんなことはすっかり忘れていた。

しかしそのシーンが映されたとたん、ひどく後悔することになった。
ちょっとふざけたつもりが、友達は薫の言葉で傷ついてしまったのだ。
映像によって記憶だけでなく、自分と人の感情まで伝わってくる。
嫌というほど友達の心の痛みを知ることになった。

高校生のころ、親と口をきかなかったこともあった。
勉強、容姿、友人関係と、あの頃はいろんなことで悩んでて、いつもイライラしていた。
思えば、両親に反抗することで甘えていただけだったんだ。

母の心配な想いが伝わると、薫の胸がぎゅっと痛んだ。
もっと親孝行しておけば良かった……


――人生のストーリーが終盤に近づいてきた。

同僚の高橋くんと一緒に残業をして、帰りにご飯を食べた時のシーンが映し出された。
告白する絶好のチャンスなのに、どうしても薫は勇気を出すことができない。

実はその時、彼も同じことを考えていた。
結局、二人とも断られるのが怖くて、何も言えなかった。

彼が葬儀場で後悔していたのはこのことだったのだ。
どうか、もう自分を責めないでほしい……
薫が祈る気持ちで願っていると、上映が終わった。


振り向くと、大勢の観客は口々に話し合っている。
祖父と祖母は、ニコニコと笑ってうなずいていた。

自分の人生を一から十まで、人に見られるなんて想像もしてなかった……

薫が言いようのない疲労感を感じていたところへ、屈託なく女性が話しかける。
「お疲れ様。自分の人生を振り返ってどうだった?」
「どうもなにも、恥ずかしくて。こんなの見たくないですよ。」

そう口にするやいなや、薫は祖母の言葉を思い出した。
「薫が何をしてるか、いつもおじいちゃんが見てるからね。人から見られて恥ずかしと思うことは、やってはいけないよ」

そうか、恥ずかしいことって、こういうことなんだ。
って、今ごろわかっても、遅いし!

泣いて、はしゃいで、青くなって、怒り出して、霊になっても変わらず薫は表情豊かだ。
そんな薫を微笑ましく見ていたかと思うと、女性は次の場所へと促した。

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無題
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2017.05.11 Thu l ある朝、突然 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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