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さて、薫が物珍しそうにあちこち見回していると、父が部屋に入ってきた。
留守番をしていた人に、挨拶をしている。

父に近づいてみて、薫は息を飲んだ。
――そこには憔悴しきった初老の男性がいた。
薫の知っている豪快な父の影は、どこにも見当たらなかった。

私のせいだ。私が急に死んだから……
さすがの薫も自分を責めた。

後を追うように、母も入って来た。
娘の目から見ても、美しい人だと思う。
それだけに、我が子を亡くした苦悩がくっきりと浮かび上がって、なんとも痛々しい。

「ごめんね、こんなに早く死んじゃって。私は元気だから、あんまり泣かないでね……」
母の肩に手を置くと、すり抜けてしまう。
昨日より、自分の腕が透けて見える。

私はもう、何もしてあげられない。
そう思うと、切なさで胸がいっぱいになった。

「お父さん、お母さんに優しくしてあげてね」
聞こえないとわかっていても、つい父に声をかける。

その時、父が何か思いついたように、薫のほうを振り返った。
「お父さん、私がわかるの?!」
薫の期待を裏切るように、父は首を横に振って、気のせいか、と顔を元に戻してしまった。


親戚や従兄弟に混じって、兄がやって来た。
いつも活発で明るい兄、自慢のお兄ちゃんだ。
兄もまた、言葉少なに従兄弟と話していた。

「居眠りしてたんだって?」
「あぁ。殺してやりたいよ」
兄らしからぬセリフに、薫はドキッとした。

「相手を殺したって、薫は帰って来ないよ。滅多なこと言うもんじゃない」
年上の従兄弟の言葉に、今度はホッとした。

「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ」
思わず独り言を口にする。

「大丈夫、和也は強い子だよ。」
びっくりして振り向いた。

いつも通りに祖母がニコニコと笑っている。
ただそれだけなのに、薫は心からホッとした。



弔問客で部屋が溢れだした。

するとふと、部屋の隅に座っている男の子と目が合った。
「私が見えるの?」
恐る恐る、薫は話しかけてみた。

男の子がじっと薫を見つめて、
「お母さん、写真のお姉ちゃんがいるよ」
と、母親の喪服を引っ張った。

「しっ!黙って。お話してはだめでしょ。知らん顔をしなさい」
男の子はうつむいてしまった。

何だか悪いことをしたような気がして、薫は気まずくなってしまった。

「ごめんね」
男の子の目の前で手を合わせ、謝るポーズをした。

もしかしたら、他にも私のことをわかる人がいるかもしれない。
薫はキョロキョロと見回し、自分に気づいてくれる人を探した。


「あ、高橋くんだ……」
薫の上司や同僚が弔問に来ていた。

『高橋くん』とは、薫の密かな想いびとである。
彼は目を真っ赤に腫らし、うな垂れたまま席に座った。

私のために泣いてくれたの?
薫の胸がぎゅっと掴まれたように痛い。
でも彼の声が聴きたくて、薫は彼に意識を合わせた。


……しとけば良かった。
自分の感情が混ざるせいか、意識がぶれて、うまく合わせることができない。
薫は深呼吸して、落ち着いて、もういちど集中してみた。

こんなことになるなら、あの時告白しておけばよかった。
付き合ってたら、きっと運命は変わってた。
事故で死ぬことはなかったんだ。
薫さんが死んだのは、俺のせいだ…


薫の胸はいっそう苦しくなり、ハラハラと涙が落ちた。

そんなこと! そんなことない!
私から告白することだってできたのに!
勇気が出せなかったのは、私も同じなのに!

気が狂わんばかりに、泣いた。
悔やんでも悔やみきれない想いが、今初めて一気に噴き出したのだ。


薫は泣き疲れたように感じた。
ぼんやりしていると、祖母が優しく肩を抱いてくれた。
切なさがこみ上げて来て、また泣いた。


薫が落ち着くのを待って、祖母が諭すように話しかける。
「辛いだろうね。でも薫は進まなきゃいけない。ゆっくり気持ちを整理して、天国に帰る準備をするんだよ。大丈夫、みんな同じ道を通るんだから」

「おばあちゃんも?」
「私は薫や和也のことが心配だった。大切なことを教えられずに死んだことが悔やまれたよ」

「大切なことって?」
「人間の魂は、『分け御霊』といって、神様仏様の光が分かれてできている。だから人間は、神様仏様の子供なんだよ。」

「神様仏様の子供……」
「私ら人間は、神様仏様に生かしてもらってるんだよ。そう信じることを『信仰』と言って、人間にとって一番大切なものなんだよ」

おばあちゃんの話を聞いていると、不思議と胸の奥が温かくなる。
あんなに切なくて辛かった気持ちが、少しづつ薄れていった。

すると同時に、身体が軽くなった気がして、上から吸い込まれるように身体が上がっていく。
不思議と不安もなく、そうなることが当たり前のように感じた。


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無題
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2017.05.10 Wed l ある朝、突然 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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