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「あなたは死んで間もないから、まだ現世の感覚が強いのでしょう。私たちが何のために生まれ、何をすべきかを知ることは、人間にとって幸せであり、喜びです。じきに面倒くさいとは思わなくなりますよ。」

「普通は死んでしばらくは四次元で学ぶので、すぐに五次元へと上がることはないんです。あなたは生前、いろいろな間違いもしましたが、人から喜ばれることもたくさんして来てますね。それはお祖母様がちゃんと教えてくださったおかげです。感謝しなければなりません。」


――薫が小さい頃、しばらく祖母に預けられたことがあった。

神様仏様も、おじいちゃんも、いつもちゃんと薫のことを見てるよ。
だから、大きな声で「おはよう」「ありがとう」「ごめんなさい」って言おうね。
誰かが喜んでくれることをしようね。

一つ一つ、諭すように教えてくれた。
いつも優しかったけど、危ないことをした時はめちゃくちゃ怖かった。


そっか、おばあちゃんのおかげで、私は早く天国に来れたのか。
おばあちゃんに感謝しなきゃ。
そういえば、おばあちゃんはどこに行っちゃったんだろう?

「お祖母様はもっと高い次元にいらっしゃいますが、こちらから会いに行くことはできません」
「行けないんですか?」
「自分の心に見合った次元までしか行けません。行けたとしても、まぶしさに目がくらむと聞いています。」

さすが、おばあちゃん。
でも、私から会いに行けないのは、残念だなぁ……

「私が真理を勉強して、高い次元に行けるようになったら会えますか?」
「もちろん」
守護霊は嬉しそうに微笑んだ。
「あなたの学びは、私の学びでもあります。
私はこれまであなたの守護霊となって、あなたの人生を共に歩んできました。時にはインスピレーションを送ったり、あなたが真理に沿った選択をできるよう、祈ることもたくさんありました。守護霊として生きることも、大きな学びの一つなのです。」

「えっと、じゃあ、私も誰かの守護霊とか、するんですか?」
「魂の兄弟が地上に降りるとき、交替で守護霊の役割をします。あなたが私の守護霊として生きたこともありますよ。」

その瞬間、薫の中にかなり古い記憶が蘇った。
あれは確か、いつのことだったか…

「霊格が上がると、そうした記憶も早く思い出すようになります。あなたは元々高い霊格を持っていましたが、今世では信仰の世界を持つことができなかったため、しばらく五次元で学び直すことになっています。」

こんなことなら、現世で学んでおけばよかった。

「懐かしいですね、私が現世から戻った時も、同じことを思いました。大丈夫、あなたなら長く時間はかかりません。本来のあなたがいた場所へ戻れるよう、しっかりと学んでくださいね。」

薫はホッとした。
同時に、心裏を学ぶことの責任を感じた。
自分の学びが守護霊にも影響するのだから。


「他にも仕事があるので、ここから先、私はあなたとずっと一緒にいるわけではありません。ただ、あなたが私に会いたいと思えば、いつでも会うことができます。」

薫はしっかりとうなずいた。
さぁ、がんばろう!


それから守護霊は、私を街の住人に紹介すると、
「それでは、また会いましょう。」
と告げて、どこかへ行ってしまった。




その後、薫は五次元での生活を楽しんだ。

誰もが親切にしてくれるし、住む家にも案内してくれた。
真理を学ぶ学校もあれば、働くところもちゃんとある。

学校では、六次元に行くには志を高く持つことが必要だと教えてもらった。
まずは知ること、その次に実践できなければいけない。

薫はノートに書き込んだことを、少しづつでも実践するように心がけた。

・人の魂は、神仏の分け御霊である
・私達は生かされている
・人の魂は深いところで全ての人間や、自然界と繋がっている
・自分を大切にして生きる歓びを感じる(歓喜)
・人の喜ぶこと、役に立つことをする(感謝)
・霊界の知識を学ぶ
・神仏の存在を信じる(信仰心を持つ)
・今日一日の自分の言動を振り返り、反省する
・より良い世界になるために貢献する


真理の奥は深すぎて、とても書き切れるものではない。
ただ、知り得たことをコツコツと実践していくと、不思議と必ず次の段階の知識が入ってくる。

最近は、人が何か言動を起こした時の現世での影響力は、霊界に比べて10倍とも20倍とも言われると聞いた。
つまり、霊界で良いことをして、1の徳を積めるとすれば、現世で同じことをすると10の徳を積める。
霊界で悪いことをして、1のカルマを作ったなら、現世で同じことをすると10のカルマを作ることになる。

改めて、生きている時にもっと学んで実践しておけばよかったと悔やまれる。
今度生まれた時には、必ず正しい教えを受けられる宗教を探し当て、信仰を大切にして生きるんだと、薫は心に誓った。

生まれた時に前世の記憶を消されてしまうけど、強く願っていれば自然とその道を選択できるんだと教えてもらったから、しっかりと記憶に刻み込んでおこう。
絶対に来世は真理を伝える仕事をしたい。




……いつしか薫はさらに高い次元へと移り住み、生まれ変わりの時期を迎え、また日本を選んで生まれることとなった。
今世での若い頃は苦労もしたが、そうした中から学んだことがたくさんあった。

幸せは、人や環境によって与えられるものではない。
どんな環境であっても、誰がなんと言おうとも、その人が幸せと思えるなら『幸せな人』なのだ。

昨日より今日、今日より明日へと、1秒でも長く幸せを感じられる時間を延ばしたい。
でも、24時間をニコニコと上機嫌で過ごすことは無理だから、1時間は不機嫌でいることを自分に許可しよう。

こうして、『23時間幸せ計画』は生まれた。


ただ、それは私の努力だけでは叶わない。
たくさんの霊様、人様の協力があってこそ、私の人生は豊かで幸せに過ごさせてもらっている。

少しでも感謝を形にしてお返ししたい。
だからこそ、毎日少しづつでも成長し続けていきたい。
たくさんの幸せの花を自分の心に咲かせ、その種を人様の心にも蒔いていきたい。


そしていつか、

今世の人生は上出来でした!
大満足です!!

……なんて守護霊に自慢してやろうと、密かに思っている。

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無題
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2017.05.11 Thu l ある朝、突然 l コメント (0) トラックバック (0) l top
ふいに地に足がついた。
もやがかかっていて前がよく見えない。
少しずつ霧が晴れてくると、目の前には川が流れていた。

「三途の川ですよ」
声に振り向くと、さっきの女性がいた。

あれ? この人……
今までどこにいたんだろう。
女性は黙ったまま微笑んで、川のほうを指差した。

橋の上を滑るように歩いてる(?)人もいる。
舟に乗って、川を渡る人もいる。
何か川底に落ちているものを、一生懸命拾おうとしてる人もいる。
溺れてる人もいるけど、なぜか誰も助けようとはしない。

「生前、人に親切にしてきた人は、川を楽に渡れます。人を苦しめたり、欲にまみれた生活をしていた人たちは、なかなか川を渡れないんですよ。」

薫は目を凝らした。
すると、彼らが拾おうとしてる物が見えてきた。
お金、預金通帳……あれは名刺かな?
死んだんだから、あんなものはもういらないのに、わかんないのかなぁ。

「さぁ、あなたは歩いて川を渡りますよ」
溺れている人がいるのだ、深そうな川である。薫はとまどった。
「大丈夫、さぁ」
薫は女性に促されて、歩いて川を渡った。

薫が水に足を入れると、川はひざ下が濡れる程度の浅瀬になった。
すぐそばを舟で渡る人がいる。
これだけ浅いと、舟を出すことはできないはずなのに。
不思議に思いつつ、心に湧き上がる『行かなくちゃ』という想いに押されて、川を渡った。



川を渡ると、そこには草原が広がっており、その中心には、長々と続く道があった。
人々は、誰しも黙々とその道を登っていった。

道を歩いていくと、白い神殿のような、大きな建物が見えてきた。
老若男女を問わず、外国人も日本人もいる。
たくさんの人が、どんどん建物に吸い込まれていく。

お母さんに手を引かれた子供もいる。
「あの子、かわいいなぁ。お父さんお母さんに手を引かれて。 ……え?! もしかして、家族でいっぺんに死んだってこと?!」

思わず後ろを振り向くと、女性が黙ってうなずいた。
薫はなんとなく、複雑な心境を抱えながら、建物の中に入っていった。



「この部屋へ入ってね」
女性に促されて入った部屋には、映画館のような作りで、大きなスクリーンがあった。
スクリーンに向かって、一つだけポツンと置いてある椅子に座る。

薫の後ろには大きな観客席がある。
たくさんの人が座って、何か上映でも待っているのだろうか。

そっと後ろを振り向いた。
そこには祖母と、写真でしか見たことがない祖父が並んで座っていた。
横にいる男の子は誰だろう。
もしかして、小さい時に死んじゃった、お父さんのお兄ちゃんだろうか。


スクリーンで上映が始まった。
若いころの両親が、赤ん坊を抱いている。

あれは……もしかして私?

そこから延々と薫の人生が映し出された。
生まれたところから始まり、乳児期、幼児期、幼稚園、小学校と、一つ一つ上映されていく。


小学校に上がってすぐ、友達をからかったことがあった。
薫にとっては悪気もなく、そんなことはすっかり忘れていた。

しかしそのシーンが映されたとたん、ひどく後悔することになった。
ちょっとふざけたつもりが、友達は薫の言葉で傷ついてしまったのだ。
映像によって記憶だけでなく、自分と人の感情まで伝わってくる。
嫌というほど友達の心の痛みを知ることになった。

高校生のころ、親と口をきかなかったこともあった。
勉強、容姿、友人関係と、あの頃はいろんなことで悩んでて、いつもイライラしていた。
思えば、両親に反抗することで甘えていただけだったんだ。

母の心配な想いが伝わると、薫の胸がぎゅっと痛んだ。
もっと親孝行しておけば良かった……


――人生のストーリーが終盤に近づいてきた。

同僚の高橋くんと一緒に残業をして、帰りにご飯を食べた時のシーンが映し出された。
告白する絶好のチャンスなのに、どうしても薫は勇気を出すことができない。

実はその時、彼も同じことを考えていた。
結局、二人とも断られるのが怖くて、何も言えなかった。

彼が葬儀場で後悔していたのはこのことだったのだ。
どうか、もう自分を責めないでほしい……
薫が祈る気持ちで願っていると、上映が終わった。


振り向くと、大勢の観客は口々に話し合っている。
祖父と祖母は、ニコニコと笑ってうなずいていた。

自分の人生を一から十まで、人に見られるなんて想像もしてなかった……

薫が言いようのない疲労感を感じていたところへ、屈託なく女性が話しかける。
「お疲れ様。自分の人生を振り返ってどうだった?」
「どうもなにも、恥ずかしくて。こんなの見たくないですよ。」

そう口にするやいなや、薫は祖母の言葉を思い出した。
「薫が何をしてるか、いつもおじいちゃんが見てるからね。人から見られて恥ずかしと思うことは、やってはいけないよ」

そうか、恥ずかしいことって、こういうことなんだ。
って、今ごろわかっても、遅いし!

泣いて、はしゃいで、青くなって、怒り出して、霊になっても変わらず薫は表情豊かだ。
そんな薫を微笑ましく見ていたかと思うと、女性は次の場所へと促した。

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2017.05.11 Thu l ある朝、突然 l コメント (0) トラックバック (0) l top
さて、薫が物珍しそうにあちこち見回していると、父が部屋に入ってきた。
留守番をしていた人に、挨拶をしている。

父に近づいてみて、薫は息を飲んだ。
――そこには憔悴しきった初老の男性がいた。
薫の知っている豪快な父の影は、どこにも見当たらなかった。

私のせいだ。私が急に死んだから……
さすがの薫も自分を責めた。

後を追うように、母も入って来た。
娘の目から見ても、美しい人だと思う。
それだけに、我が子を亡くした苦悩がくっきりと浮かび上がって、なんとも痛々しい。

「ごめんね、こんなに早く死んじゃって。私は元気だから、あんまり泣かないでね……」
母の肩に手を置くと、すり抜けてしまう。
昨日より、自分の腕が透けて見える。

私はもう、何もしてあげられない。
そう思うと、切なさで胸がいっぱいになった。

「お父さん、お母さんに優しくしてあげてね」
聞こえないとわかっていても、つい父に声をかける。

その時、父が何か思いついたように、薫のほうを振り返った。
「お父さん、私がわかるの?!」
薫の期待を裏切るように、父は首を横に振って、気のせいか、と顔を元に戻してしまった。


親戚や従兄弟に混じって、兄がやって来た。
いつも活発で明るい兄、自慢のお兄ちゃんだ。
兄もまた、言葉少なに従兄弟と話していた。

「居眠りしてたんだって?」
「あぁ。殺してやりたいよ」
兄らしからぬセリフに、薫はドキッとした。

「相手を殺したって、薫は帰って来ないよ。滅多なこと言うもんじゃない」
年上の従兄弟の言葉に、今度はホッとした。

「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ」
思わず独り言を口にする。

「大丈夫、和也は強い子だよ。」
びっくりして振り向いた。

いつも通りに祖母がニコニコと笑っている。
ただそれだけなのに、薫は心からホッとした。



弔問客で部屋が溢れだした。

するとふと、部屋の隅に座っている男の子と目が合った。
「私が見えるの?」
恐る恐る、薫は話しかけてみた。

男の子がじっと薫を見つめて、
「お母さん、写真のお姉ちゃんがいるよ」
と、母親の喪服を引っ張った。

「しっ!黙って。お話してはだめでしょ。知らん顔をしなさい」
男の子はうつむいてしまった。

何だか悪いことをしたような気がして、薫は気まずくなってしまった。

「ごめんね」
男の子の目の前で手を合わせ、謝るポーズをした。

もしかしたら、他にも私のことをわかる人がいるかもしれない。
薫はキョロキョロと見回し、自分に気づいてくれる人を探した。


「あ、高橋くんだ……」
薫の上司や同僚が弔問に来ていた。

『高橋くん』とは、薫の密かな想いびとである。
彼は目を真っ赤に腫らし、うな垂れたまま席に座った。

私のために泣いてくれたの?
薫の胸がぎゅっと掴まれたように痛い。
でも彼の声が聴きたくて、薫は彼に意識を合わせた。


……しとけば良かった。
自分の感情が混ざるせいか、意識がぶれて、うまく合わせることができない。
薫は深呼吸して、落ち着いて、もういちど集中してみた。

こんなことになるなら、あの時告白しておけばよかった。
付き合ってたら、きっと運命は変わってた。
事故で死ぬことはなかったんだ。
薫さんが死んだのは、俺のせいだ…


薫の胸はいっそう苦しくなり、ハラハラと涙が落ちた。

そんなこと! そんなことない!
私から告白することだってできたのに!
勇気が出せなかったのは、私も同じなのに!

気が狂わんばかりに、泣いた。
悔やんでも悔やみきれない想いが、今初めて一気に噴き出したのだ。


薫は泣き疲れたように感じた。
ぼんやりしていると、祖母が優しく肩を抱いてくれた。
切なさがこみ上げて来て、また泣いた。


薫が落ち着くのを待って、祖母が諭すように話しかける。
「辛いだろうね。でも薫は進まなきゃいけない。ゆっくり気持ちを整理して、天国に帰る準備をするんだよ。大丈夫、みんな同じ道を通るんだから」

「おばあちゃんも?」
「私は薫や和也のことが心配だった。大切なことを教えられずに死んだことが悔やまれたよ」

「大切なことって?」
「人間の魂は、『分け御霊』といって、神様仏様の光が分かれてできている。だから人間は、神様仏様の子供なんだよ。」

「神様仏様の子供……」
「私ら人間は、神様仏様に生かしてもらってるんだよ。そう信じることを『信仰』と言って、人間にとって一番大切なものなんだよ」

おばあちゃんの話を聞いていると、不思議と胸の奥が温かくなる。
あんなに切なくて辛かった気持ちが、少しづつ薄れていった。

すると同時に、身体が軽くなった気がして、上から吸い込まれるように身体が上がっていく。
不思議と不安もなく、そうなることが当たり前のように感じた。


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2017.05.10 Wed l ある朝、突然 l コメント (0) トラックバック (0) l top
――心なしか、部屋が冷んやりと感じる。
静かに横たわる自分の姿を見ることも、だいぶ慣れてきた。
しかし先ほどと違って、両親がそこにいた。

母は薫にしがみついて泣いている。
父は無言で薫を見下ろしていた。

ごめんなさい……
ただ、そんな想いしか言葉にならない。

そうだ、お兄ちゃんはどうしてるだろう。
来てくれてるのかな。


逃げるように病室を出て、薫は待合室や休憩所に兄がいないかと探した。
本当は、辛そうな両親を見ることに耐えられなかったのだ。

中庭にポツリと置かれたベンチに、一人座っている兄をようやく見つけた。
真っ青な顔でうつむいている。

「お兄ちゃん」
――聞こえないとわかっていても、つい声をかけてしまう。


信じられない……
今朝まで一緒にいたのに。
いつものように朝ご飯を食べて、行ってきますって……

こんな呆気なく人は死んでしまうのか。
薫は何も悪いことなんてしていないのに。
あまりにもひどすぎる! 早すぎる!

兄の目に涙がにじんだ。


――お兄ちゃんにはもう、私が見えないんだ……

自分の存在を気づいてもらえない。
そう実感すると、薫は急に悲しくなった。
「俺のは、薫を嫁に出してからでいい」
見合いの話を持ち込む母に、兄はいつもそう言って断っていた。

「結婚できないのを、私のせいにしないでよね!」
軽口をたたきながらも、薫が小姑になることを避けているのはわかっていた。
かといって、薫に一人暮らしもさせたくない。

「すぐに甘やかすんだから……」
母に小言を言われようがどうしようが、私にはとことん優しかった兄。


「お兄ちゃん……」
今度は呟くような、独り言に過ぎなかった。
薫の声は、もう二度お兄ちゃんに届かない。


兄を見ているのも辛い。
仕方なく、薫は病室に戻ろうと振り返ると、祖母が少し寂しそうな顔で立っていた。

「おばあちゃん、これから私、どうなるの?」

問いかける薫に、祖母はつぶやくように答えた。
「人がどこから生まれ、死んだらどこへ帰るのか、薫に教えておきたかった。でもお母さんは『縁起でもない話をしないでくれ』って嫌がったから、話せなかったんだよ」


生前、祖母は毎日欠かさず、お仏壇にお参りをしていた。
お仏壇には、おじいちゃんの他にも、幼い頃亡くなった父の兄弟が入っている。

「おじいちゃんは、どこにいったの?」
「お空の上にいるよ。いつも薫のこと見ててくれてるよ。今日は何をしてるのかなって」

おばあちゃんは、天国と地獄の話とか、お釈迦様の話とか、不思議な話もたくさんしてくれた。
楽しくて、時々ちょっと怖くって、ワクワクした。

ずっと聞いていたいのに、いつも母が
「はい、これでおしまい!」とさえぎった。
子供の目から見ても、そんな時の母は面白くなさそうだった。

でも、小さい時の記憶なのに、何でこんなにクリアに思い出せるんだろう…


祖母は遠くを見るようにして、話し続けた。
「人が死ぬと、身体から魂が抜けて、あの世に生まれ変わる。あの世で生活して、また時期が来れば、この世に生まれ変わって来るんだよ」

この話は初めて聞いた。
「人は死んだら、それでおしまいじゃないの?」
「違うよ。体は土に還り、魂は天に帰る。心が残る、と言ったほうが、薫にはわかりやすいかな」


母が時々思い出すかのように、つぶやくのを思い出した。
「――人間、死んだらそれで『おしまい』だからね」
母は早くに両親を亡くして苦労したそうだから、そんな風にでも思わないと、辛くて生きていけなかったのかもしれない。

――そうか、だから私は『死んだらおしまい』だと、思い込んでたんだ……


薫にも、ようやく少し状況が飲み込めてきた。

今、私はこの世で死んで、肉体から魂が離れている。
だから、会いたい人に会えて、行きたいところに行けるんだ。
そっか、この世にまた生まれることができるなら、死ぬのもまんざら悪くないかもしれない……


「さぁ、みんなに挨拶してから帰ろうね」
祖母の声に気づくと同時に、薫は自分のお葬式に来ていた。

――まだ準備の途中なのか、留守番をしてる以外、誰もいない。

「よりによって、この写真?!」
薫は遺影を見て顔をしかめた。
急な事故だったから、仕方ないんだろうけど、もう少し探してくれたっていいのに。

棺の中ものぞいて見たが、なんだか変な感じがする。
どうも自分の顔に思えない。

――そっか!目をつぶってるからだ!
よく気がついたと、薫は自分を褒めた。


生前から薫は、『自分を褒めてモチベーションを上げる習慣』を心掛けていた。
通常より早く、霊となった自覚をし、現状を受け入れているのは、そうした努力の賜物だろう。



実は、人間の本体は、肉体ではなく霊(魂)である。
だから肉体を亡くしても、人の性格や考え方は、ほとんど変わらない。

明るく、他人にも優しい者は、天に帰る。
暗く、他人に無関心な者は、地獄に帰る。
この世に未練が強すぎて、地獄にさえ帰ることができない者もいる。

地獄とは、この世でいう病院のようなものだ。
『人のふり見て我がふり直せ』
自分と同じ性格の人間に囲まれて、相手を通して自分の考え方の間違いに気づく。
これではいけないと反省した時、天に帰り、よくよく学んだ後に、この世に生まれ変わる。


しかし、生きている時に比べて、魂だけになると考え方を矯正することが難しい。
だから、生前に正しい考え方を持つことは、とても大切なことなのだ。

薫はいつ頃、それを理解できるだろうか……


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2017.05.10 Wed l ある朝、突然 l コメント (0) トラックバック (0) l top
「夜勤明けなのに、ついてないなぁ」
突然、声が薫の耳にこだました。
「若いのに気の毒に……」
「今日はようやくデートにこぎつけたんだ。さっさと仕事して早く帰ろう」

誰? 何なの?
誰がしゃべっているのかわからないが、いろんな声が一気に入ってくる。
薫はますますパニックになった。

「やめて! 誰か止めて!」
泣きじゃくりながら耳をふさぎ、その場にしゃがみこんだ。

「――大丈夫よ」
女性が薫の肩をそっと抱いて、優しく声をかけた。
「誰でも最初は驚くけど、大丈夫だからね」

薫の気持ちが落ち着くのを待って、女性は話を続けた。
「気の毒だけど、あなたは事故で死んだの。こちらの世界では、心の声がすべて聞こえるのよ。最初はみんな驚いてパニックになるけど、じきに慣れるわ」

薫は怪訝そうな顔で女性を見つめた。
ショックもなにも、自分自身がここに存在するのに、死んだと言われても信じられない。
まだ若いし、死んだらどうなるなんて考えたこともないし。

――でもやっぱり、あのトラックは夢じゃなかった。私、死んだんだ……

薫は自分の置かれた状況が理解できないものの、何とか受け入れようと思った。
でも……人間、諦めが肝心。
死んじゃったものは、しょうがないじゃない。

そんな薫を、慈しむように女性が見つめた。

ベッドの上では、看護師の一人が丁寧に薫の身支度をしている。
「その看護師に意識を合わせてごらんなさい」

そう言われても、意味がわからない。
だいたい、この女性を信じていいものか、それすらもわからない。
でも、他に話せる人もいなさそうだし……

諦めたかのように、薫は看護師の声を聴こうと、彼女を見つめて耳を澄ませた。


――何だろう、言葉にならない。
モヤッとした、これは……悲しみ?

その瞬間、薫の中に看護師の記憶が走った。

私と同じ年ぐらいの娘さんを病気で亡くされている。
ずいぶん前のはずだけど……
それでもこの人の心は、今もなお、深い悲しみでいっぱいなのだ。

――いけない。
いつまでも見つめていると、私まで悲しくなってくる。


薫にとって、それは不思議な感覚だった。
瞬時に相手の気持ちや記憶を自分の中に取り入れることができる。
ただうっかりすると、相手の感情が自分の感情と区別がつかなくなりそうだ。


――これって、人の心が読めるってこと?! ちょっとすごいかも。
不安な状況であるにも関わらず、まるで霊能者になったような体験に、薫は興奮した。
父親ゆずりの楽天的な性格に加えて、『何があっても、気持ちは明るく持つ』クセをつけていたからだ。

心の声を聴くことに慣れてくると、逆に聞きたくない声を無視することもできるようになった。


「霊と霊の間では、自分の声も相手に伝わってしまうから、隠し事ができないの。」
突然の女性の声に、薫は一気に現実に引き戻された。

霊ってなに? そういえば、この人は誰? もしかして幽霊ってやつ?!

薫がいぶかしげに女性を見つめるものの、彼女は薫の目線を無視して話を続ける。
「あなたが誰かに会いたいと思えば、すぐにその人に会うことができる。行きたいところにも、すぐ行けるのよ」

会いたい人に会える?
もしかして、今なら死んじゃった人でも会えるのかな。
それなら……おばあちゃんに会いたい。

いつも優しかったおばあちゃんは、ニコニコ笑ってる顔しか記憶がない。
私が中学に上がる前に死んじゃって、来る日も来る日もおばあちゃんを思い出しては泣いたっけ。
会えるものなら、もう一度会いたい。


――おばあちゃんに会いたい。

薫は祖母の記憶に意識を集中させた。
その瞬間、目の前に大きな光が現れた。
その中に誰かいるんだけど、まぶしくてよくわからない。

――目が慣れてくると、それが光に包まれた祖母だとわかった。
祖母の変わらぬ優しい笑顔に、薫の不安は一気に払拭された。


「――え? ほんとに? おばあちゃん?!」
薫は飛びつくように祖母の胸に飛び込んだ。
祖母の記憶が鮮やかに、薫の心によみがえる。

「薫は我慢強いね、えらかったね。もう大丈夫」
――転んで半べそかいてると、私の頭をそっと撫でてくれた。

「たくさん採れたね。お母さんに自慢しよう。卵とじにしてもらおうね」
――春になると、ツクシを採りに連れてってくれるのが楽しみだった。


おばあちゃん、あの頃と何も変わってない。
祖母の顔を見て安堵したせいか、つい泣きそうになるのを薫はぐっとこらえた。

「大きくなったねぇ、すっかり美人さんになって。薫は本当に我慢強い子だ、もう大丈夫だからね」
子供のようにうなずいて、祖母の話に耳を傾けた。

「薫、どこか行きたいところはあるかい?」
「できれば、おばあちゃんの家に行ってみたい。でも、もう無くなってるし……」
「薫が行きたいと願えば、ちゃんと行ける。さぁ、おばあちゃんの家を思い出して、行きたいと願ってごらん」


薫はもう一度大きくうなずいて、目を閉じた。
――おばあちゃんの家に行きたい……

瞬時に薫の目の前には、懐かしい祖母の田舎が広がっていた。


すっごい…… なにこれ……


言葉にならないほど、薫の胸は高鳴った。
そばにはニコニコと笑う祖母が見ている。

玄関を開けて、慎重に中に入る。
何となく壊れてしまいそうな気がしたからだ。

祖母が大切に使っていた、タンス、テーブル、姿見……
そこには何もかもが揃っていた。

ゆっくりと、庭先からトイレや納戸まで、薫は記憶を味わうかのように見て回った。


祖母と一緒に寝ていた、仏間も当時のままだ。
仏壇には、祖父の写真が飾られている。

仏壇の前に座ると、気難しい顔の祖父と目が合った。

薫が生まれる前に亡くなった祖父とは面識がない。
母からは、面白い人だった、とだけ聞いている。

祖母が生前そうしていたように、薫はそっと手を合わせた。


家の外に出ると、川のせせらぎが聞こえてくる。
キラキラ光る木々の美しいこと!

どこからか、セミの鳴くのも聴こえる。
セミ取りにもよく行ったっけ。
夏休みになると、従兄弟たちと会える日がいつも待ち遠しかった。

どれもこれも、本当に懐かしい……

「おばあちゃん、これどうなってんの?」
薫は目を丸くして尋ねた。
相変わらず、祖母はニコニコと微笑んでいる。

「――さて、そろそろ行こうかね」
「行くって、今度はどこ行くの?」

考える間もなく、薫は病室に戻っていた。

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無題
2017.05.09 Tue l ある朝、突然 l コメント (0) トラックバック (0) l top
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